TRACコーチ 大西正裕

カテゴリ:ヘッドライン,学ぶ

TRACの大西です。

サニブラウン選手の快挙に続きやってくれました!日本男子スプリントチームが世界陸上で初の銅メダルに輝きました!リオ五輪に続き、2大会連続でのメダル獲得は快挙です!

さて、日本リレーチームのメダル獲得の背景を検証したいと思います。(敬称略)

 

まず、予選のレースから。予選1組では強豪であるアメリカ、イギリス、トリニダードトバコ、オランダ、日本が激突しました。
No.9でも書いた通り、イギリスが充実の布陣を組み、アメリカも200mのファイナリスト2名を外したメンバーで臨みました。日本は、リオで1走を務めた山縣の代わりに新鋭の多田を起用。2走以降はリオメンバーのままで、飯塚−桐生−ケンブリッジと繋ぎます。サニブラウンは事前の報道であった通り、足に不安があるため出場せずとなりました。
レースは終始、イギリスが抜群のバトンワークを見せリード。ゴール前でアメリカのコールマンに抜かれ2着。日本はバトンが各地点共に詰まり気味で、次走者の加速を乗せたところでのパスが行えず不完全燃焼なレースでした。

バトンパスの巧さは「4人の100mシーズンベスト−実際のタイム」から算出する利得タイムが指標となります。この利得タイムが大きいほど、バトンパスが巧いという評価になります。

予選1組の利得タイム
1着 アメリカ    2.09
2着イギリス 2.43
3着日本   2.07  ※リオ五輪時:2.78

やや物足りないレースであったことが利得タイムからもわかります。一方で、イギリスはパスワークも選手の状態も良く、決勝ではチャンスありのレースでした。アメリカは、フルメンバーではなくどういったメンバーで組むのかは不気味でした。

 

予選2組では、ジャマイカ、中国、フランス、カナダ、ドイツが当たりました。ジャマイカは予選からボルトを要し、フランスもビコー、ルメートルという実力者を起用してきました。ドグラスが怪我で欠くカナダ、至近大会で決勝の常連になりつつある中国がどんなレースを見せるかでした。
レースはバトンパスは酷いものの圧倒的な走力の差を見せたジャマイカが1着。パスワークで抜け出しアンカーのルメートルの追い上げでフランスが2着。3着には100mファイナリストの蘇が抜群のコーナーワークを見せ中国が入りました。

予選2組の利得タイム
1着 ジャマイカ    2.18
2着フランス  2.76
3着中国    2.72

となり、2秒台後半の利得タイムでフランス、中国が走りました。

 

迎えた決勝ですが、予選をリザーブメンバーで臨んだアメリカ、ジャマイカは選手を変えてきました。アメリカは予想されたウェブ、ヤングといった200mの選手を決勝でも外し、3走に若手のバコンを起用しました。ジャマイカは、大きく変更し9秒台のマクリオド、ブレイクを1走、3走に起用し、決勝チームで唯一4人が100m9秒台の自己ベストを持つ布陣となりました。日本も予選でアンカーを務めたケンブリッジがやはり足への不安があり外れ、決勝はリレー要因として代表となったベテラン藤光がアンカーとして起用されました。イギリス、中国、フランスは予選と同じメンバーで決勝レースへ臨むこととなりました。

決勝もイギリスのウジャーがいい飛び出しを見せ、2走のジェミリもガトリンの追撃を許さずアンカーへのパスは先頭で通過、アンカーにジャマイカはボルト、アメリカはコールマンが控えてがギリスを追いますが、ボルトはレース途中で足を痛め、コールマンは僅かに届かず、イギリスがナショナルレコードを更新して優勝。日本は3、4番手でアンカーにパスをしましたが、前を行くボルトが足を痛め失速。その間隙を縫って、銅メダルを獲得しました。

 

さて、予選では鳴りを潜めた日本のパスワークはどうだったのでしょうか?

決勝の利得タイム
1着 イギリス 2.72  (予選:2.43)
2着 アメリカ 2.22(予選:2.09)
3着 日本   2.39(予選:2.07)
4着 中国   2.54(予選:2.72)
5着 フランス 2.31(予選:2.76)
途中棄権 ジャマイカ

上位チームは予選からメンバーを変えながらも、利得タイムをあげてきました。一方で、予選でいいパスワークを見せた中国、フランスは予選よりも利得タイムを下げてしまい順位落としてしまいました。

日本はパスワークが自慢なはずなのにも関わらず、利得タイムは上位5チーム中3番目という結果に。リオ五輪と比べても約0.3秒ほど利得タイムは遅くなっていました。

 

 

なぜメダルを獲得することができたのでしょうか?

2つの理由が考えられます。

1つ目は、シーズンのコンディションが非常に良い点です。俗にいう「調子がいい」選手が多かったことです。自己ベスト(PB)とシーズンベスト(SB)の差を見ることで、そのシーズンの状態を評価することができます。決勝レースを走った4人を例に見てみましょう。

イギリス PB:40.06 SB:40.19     差:−0.13
アメリカ PB:39.41  SB:39.74     差:−0.33
日本   PB:40.40 SB:40.43    差:−0.03
中国   PB:40.63 SB:40.92    差:−0.29
フランス    PB:40.11  SB:40.79    差:−0.68
ジャマイカPB:39.25 SB:39.83    差:−0.58

これを見ると日本が群を抜いて差が少ないことがわかります。また、優勝したイギリスもこれに近く、パスワークに加えてこの状態の良さも優勝への後押しになったことがわかります。

 

2つ目は、個の走力が高まっていることという点です。
これまで日本は個が及ばなくても技術力でカバーできるリレーなら勝負できるというイメージがありましたが、パスワークに頼らずとも個の力で勝負できるよう地力がついてきました。日本チームの上位4名の合計は40.25となります。優勝したイギリスまで0.19秒差であり、その年のコンディションやパスワーク次第では日本の優勝と言うのも夢物語ではありません。また、決勝を走った5チームで9秒台の自己ベストを持つ選手は、ジャマイカが4人、アメリカ、イギリスが3人、フランスが2人、中国が1人と日本だけいません。早く9秒台の選手がいないことを嘆くではなく、9秒台に間近に迫っている選手が多くいるという層の厚さが日本スプリント界の躍進の一因であると思います。

(でも、やっぱり早く9秒台が見たいですが・・・苦笑)

 

日本伝統のバトンパス

に注目されがちですが、選手個々の地力がつき戦った今大会のメダルは今まで違った輝きがあるように感じます。